【MAU】著作権法【課題1】

MAU通信 -著作権法

著作権法 第1課題

「あなたがもっとも関心をもった表現活動上の法的問題をひとつ選び、「論点」を明確にすることを目標として論じなさい。」

レポートの参考にどうぞ。
全体的・部分的問わず、剽盗・転載はご遠慮ください。

レポート本文

 近年、表現の自由とプライバシー権が議論の対象になることがある。本レポートでは表現の自由とプライバシー権が裁判において衝突した場合どちらが尊重されるのか研究する。

表現の自由とは、日本国憲法21条で保障されている基本的人権の一つで「集会、結社、及び言論、出版その他一切の表現の自由を保障する」ものである。他方プライバシー権は、憲法14条以下の各規定に具体的な根拠を求めにくいが、憲法上の保護が認められるべき権利として捉えられている新しい権利の一つである。(他に肖像権・環境権など)「各人は、自分の個人的な情報や、私生活の平穏や、高度に個人的な事柄に関する人生の選択について、他者から―とりわけ公権力から―不当な干渉を受けない権利をもっている」(*1)というのが概要である。プライバシー権はおもに憲法13条の幸福追求権を根拠に主張されており、13条自体は、「個人の尊重と公共の福祉」について定めている。
 表現の自由とプライバシー権が裁判において討論の対象になった事件として、「宴のあと事件」と「石に泳ぐ魚事件」をあげることができる。
 「宴のあと事件」は、1961年3月15日、有田八郎にプライバシーを侵すものであるとして、三島由紀夫と新潮社が訴えられた事件である。三島による小説「宴のあと事件」の中でモデルとして描かれた有名政治家が、自分の私的な交友関係について小説中で公表されたことにつき、プライバシー侵害の訴えを起こしたのである。裁判所はこの主張を認め、作家と出版社に損害賠償の支払いを命じた。争点となったのは「プライバシー権の存在を認めるか、また、そしてこの裁判においてそれが侵害されているか」である。この際本判決ではプライバシー権を「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」(*2)と定義し、また、それがこの事件では侵害されたという判断をしている。判旨は「小説なり映画なりがいかに芸術的価値においてみるべきものがあるとしても、そのことが当然にプライバシー侵害の違法性を阻却するものとは考えられない。それはプライバシーの価値と芸術的価値の基準とは全く異質のものであり、法はそのいずれが優位に立つものとも決定できないからである」と定めたうえで、「たとえ報道の対象が公人、公職の候補者であっても、無差別、無制限に私生活を公開することが許されるわけではない」(*3)とした。この事件はわが国において初めて「プライバシーの権利」が確立した、リーディングケースとなった事件である。
 つぎに「石に泳ぐ魚事件」について述べる。被告柳美里は、1994年、月刊誌「新潮」に「石に泳ぐ魚」と題する小説を執筆した。本件裁判は、原告がこの小説の登場人物「朴里花」は自分をモデルにしたものであり、その内容が原告の名誉を棄損し、プライバシーを侵害し、また名誉感情を侵害するとして執筆者の柳美里、掲載者の新潮社などを被告として、損害賠償や同小説の出版差し止めなどを求めて提訴したものである。フィクションであってもモデルのプライバシー侵害となりうることについては、「宴のあと」を巡る裁判で損害賠償を命じて以来、もはや常識の部類に属することとなっており、今裁判でもその侵害の事実性が問われることとなった。プライバシー侵害の要件について「原告がみだりに公開されることを欲せず、それが公開された場合に原告が精神的苦痛を受ける性質の未だ広く公開されていない私生活上の事実が記述されている場合には、本件小説の公表は原告のプライバシーを侵害するものと解すべきである」(*4)とする基準を提示している。結局この問題は最高裁まで争うことになったが、最終的に、作家と出版社に損害賠償および出版差し止めの判決が下った。注目すべきは、小説に関して、出版の差し止めまで認められたケースはわが国において初めてのことだった点である。出版差し止めを退けた宴のあと事件と違い、なぜ石に泳ぐ魚事件は、差し止め判決を受けたのか。2002年、最高裁の判決において上田豊三裁判長は「公共の利益にかかわらない女性のプライバシーを小説で公表することによって、公的立場にない女性の名誉、プライバシー、名誉感情を侵害した」と認定し、また、「出版されれば、女性に回復困難な損害を与えるおそれがある」(*5)と告げている。ただし今回の場合、差し止めはオリジナル原稿についてのみ認容され、改訂版については退けられている。

表現の自由は憲法で保障されている最も基本的で不変の権利であるが、プライバシー権の侵害は人の幸福を喪失させてしまう恐ろしさをもっている。どちらの裁判においても表現の自由とプライバシー権は同じ土俵のものではないという意見が強く主張され、モデルを守る意見が多い一方、そうではないとする意見も存在する。次回はその双方の考え方や、理論に詳しく触れていく。

参考文献

  • (*1)「新版表現活動と法」 志田 陽子 武蔵野美術大学出版局 2009
  • (*2)「憲法判例を読む」 芦部信喜 岩波セミナーブックス21 1987
  • (*3)「憲法重要判例集」 吉田善明 敬文堂 2000
  • (*4)「プライバシーと出版・報道の自由」 青弓社編集部 青弓社 2001
  • (*5)国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(http://www.glocom.ac.jp)

オススメの参考図書

↑↑ 芦部信喜氏の講義録で、憲法のあり方を巡る重要な判例が多く掲載されています。プライバシー権関連でレポートを書く場合は 「プライバシーと出版・報道の自由 (青弓社ライブラリー)」もオススメです。

タイトルとURLをコピーしました