現代芸術論 第1課題
「現代芸術における「~主義(イズム)」とは何か。一つの「主義(イズム)」を中心として、その派生と終焉/継続について述べよ。」
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レポート本文
20世紀の芸術は様々な主義の誕生と消滅の繰り返しである。本レポートでは「シュルレアリスム」を中心に、他の主義との関わりについてまとめる。
シュルレアリスムは1924年にフランスの詩人アンドレ・ブルトンが提唱した思想活動で、夢や驚異、無意識、狂気、偶然などに注目し、夢と現実が矛盾することなく一つの世界を作るような「超現実」の実現を目標とする。文学・美術など様々な分野で世界中に広まり20世紀最大の芸術運動となった。シュルレアリスムには大別して二つの様式がある。一つは「夢や無意識に従って描く」(*1)様式で、ホアン・ミロ、マックス・エルンストなどの画家が該当する。オートマティズム、コラージュ、デカルコマニーなどの手法を用いて意識を排除し、無意識の世界を表現する。そのため彼らの絵画には具象的な形態がなく記号的なイメージにあふれている。ミロの作品「太陽の前の人と犬」は、幻覚症状にも似たイメージの世界から偶然湧きあがってくる詩的な夢想をキャンバスに再現した抽象的で自由な形態を持っている。もう一つは、「理論的にウラを描く」様式で(*1)、サラバドール・ダリやルネ・マグリットなどの画家が該当する。現実の世界ではあり得ないものの組み合わせや、ダブル・イメージなどで夢や深層心理下の独自の世界を表現しようとする描き方で、度々デペイズマンやトロンプ・ルイユなどの手法が用いられる。ダリの作品「眠り」は、非合理的で奇怪なイメージを写実的・細密に描き、デロリとした不気味で強烈な世界を表現している。
シュルレアリスムは特に「ダダイズム」と「形而上絵画」の二つの主義の影響を強く受けていると言われ、その流れを組んでいる。
「ダダイズム」は、1916年にスイスのチューリヒに集まった各国の芸術家たちの間で生まれた運動である。第一次世界大戦を、西欧文化の価値観全体を揺るがす大変動と受け止め、従来の既製価値を否定・破壊する精神を根本に持つ芸術運動である。マルセル・デュシャンは「泉」と題したサインを描いただけの便器や、レオナルドの「モナ・リザ」にヒゲを付けた作品などを発表し、今まで正しいと思われていた全てに反対するアートを生みだした。ダダイズムは短命に終わったが、無意味・無価値なものに新しい原点を求める精神は、シュルレアリスムに引き継がれることになる。「コラージュ」や「モンタージュ」はダダの時代に試みられた手法で、シュルレアリストもこれらの手法から生み出される「偶然性」を作品に取り入れた。ブルトンやエルンストは元々ダダイストから出発し、シュルレアリストとなった芸術家である。ダダイズムの創始者にしてシュルレアリストでもあるトリスタン・ツァラは「シュルレアリスムはダダの灰から生まれた」と書いている。(*1)シュルレアリスムは、ダダという徹底した否定と破壊の運動の後を受けて、夢や無意識や非合理の世界を解放することで、「新しい価値」を創造しようとする運動であったといえる。
シュルレアリスムに影響を与えたもう一つの動きである「形而上絵画」は1917年にイタリアのフェラーラの陸軍病院で、ジョルジュ・デ・キリコとカルロ・カッラが出会い意気投合したことから始まる。形而上絵画とは日常世界の背後にある世界、合理的な思考では理解できない世界を表現することを目指す芸術である。デ・キリコは遠近感の強調された人の気配のない広場、長い影、石膏像などのモチーフを合理的ではない関係性で組み合わせ、常識の外に広がる未知の領域を表現した。キリコは芸術作品を不滅にするためには人間的限界の外側に立つ必要があると考え、現実を超えた超感覚的な世界を求めた。この考え方はブルトンをはじめ多くのシュルレアリストに強い影響を与え、特にダリやマグリットといった「理論的にウラを描く」様式のシュルレアリストの絵からその響きを見ることができる。
第二次世界大戦を受け、多くのシュルレアリスト達がパリから離散した。ブルトンやダリ、エルンストらは第二次大戦の前後に渡米し、1940年代にアメリカで生まれた抽象表現主義に強い影響を与えた。抽象表現主義の画家ジャクソン・ポロックは無意識の世界を解放するオートマティズムの手法とインディアンの砂絵の描き方からヒントを得て、キャンバスを床の上に置き、上から絵具を滴らせながら画面全体を覆う「アクション・ペインティング」(ドリッピング)という描き方を生んだ。このポロックをはじめ、ヴィレム・デ・ク―ニングやアドルフ・ゴットリーブなどが同様の手法で作品を作っている。偶然性を利用するという点においてシュルレアリスムと密接な関係がみられる。
ダダ・形而上絵画からシュルレアリスム、抽象表現主義へ。このように主義は断絶することなく、ある側面を受け継ぎつつ新しい形で発展している。主義というものはそれぞれ独立しているのではなく、他の様々な主義と相互に関わり合いながら生まれるのである。「ダダ・シュルレアリスムを学ぶ人のために」(*2)によると、「20世紀の文学者や芸術家でダダやシュルレアリスムの影響を受けなかったものはいない」とある。シュルレアリスムは20世紀という、主義が主義に相互に影響を与える環境の中で生まれた、最大のブームメントであったといえる。
参考文献
- (*1) 「鑑賞のための西洋美術史入門」早坂優子 視覚デザイン研究所 2006
- (*2)「ダダ・シュルレアリスムを学ぶ人のために」濱田明 世界思想社 1998
- 「すぐわかる画家別西洋絵画の見かた」岡部昌幸 東京美術 2002
- 「カラー版西洋美術史」高階秀爾 美術出版社 1990
- 「パリ・1920年代シュルレアリスムからアール・デコまで」渡辺淳 丸善ライブラリー 1997
- 「シュルレアリスム展―パリ、ポンピドゥセンター所蔵作品による」図録 国立新美術館2011
オススメの参考図書
↑↑ 時代別に主だった画家を紹介している美術の入門本です。
良くも悪くもシンプルなので、テーマ決めの時に使いやすいです。
ダダやシュルレアリスムについては、こちらの本に恐ろしいほど詳しく書かれていたので、シュルレアリスムで書きたい方&勉強されたい方は是非どうぞ。 ↓↓