【MAU】憲法【課題1】

-憲法 MAU通信

憲法 第1課題

「あなたがもっとも関心をもった憲法問題をひとつ選び、「論点」を明確にすることを目標として論じなさい。」

レポートの参考にどうぞ。
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テーマ「性表現規制について」

 近年、表現の自由に関する問題で、わいせつ物となる表現の定義とはなにか議論の対象になる事がある。日本国憲法21条でいかなる表現も保障されている一方、刑法第175条でわいせつ物に対する規制と罰則が設けられている。場合によっては矛盾となりえる法のあり方から、この二つの法律は時として対立することがある。以下、この二つの関係について事例をまじえつつ検討する。

 日本国憲法とは、日本国の最高法規である。基本的にこれに反する法律(下位規範である刑法や法令)は無効とされる。この度問題となるのは日本国憲法21条である。これは「集会、結社、及び言論、出版その他一切の表現の自由を保障する」ものである。一方刑法第175条、これは「性的秩序を守り最少限度の性道徳を維持することが立法目的」(*1)としており、「わいせつな文書、図面その他の物を領布し、販売し、又は公然と陳列したものに2年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する」(*2)ものである。どちらも人々の権利の為に必要な法であると考えられるが、時に性表現を、表現の自由として保障すべきか、わいせつ物として取り締まるべきか、その判断が論じられることがある。これはわいせつ物とはなにか、容易に納得のいく定義付けがなされていない為である。
 わいせつ物かどうかが争点となった判例として、チャタレー事件とメイプルソープ事件を挙げることができる。チャタレー事件は昭和32年にD・H・ローレンスの作品「チャタレイ夫人の恋人」を日本語に訳した「伊藤整」と出版元の小山書店社長「小山久二郎」が刑法第175条「わいせつ物領布罪」に問われた事件である。結局この判決では、最高裁判所が昭和32年3月13日の大法廷判決で有罪判決を下す結果になった。この際、最高裁判所はわいせつの概念を、「第一は、性欲を刺激興奮させること、第二は、羞恥心を害すること、第三は、善良な性的道義、道徳概念に反すること」(*1)とし、判決した。この定義では、作者が文学・美術的な目的で作っていても、わいせつ物扱いになるということを示している。
 次にメイプルソープ事件について説明する。平成6年11月1日に原告の出版社社長が、米国の写真家「ロバート・メイプルソープ」の写真集の日本語版を出版した。その後平成11年に、商用のため、渡航していた米国からこの写真集を持参し日本へ帰国した際に、新東京国際空港在所の東京税関成田税関支署旅具検査場において、写真集がわいせつ図面、すなわち「風俗を害すべき物品」に当たると判断され、関税定率法21条1項4号所定の輸入禁制品に該当する旨の通知を受けたのが始まりであり、メイプルソープ事件はこの件の妥当性を巡り出版社社長と日本政府が争った事件である。一審の東京地裁判決では原告である出版社社長の主張を認め、処分取り消しと約70万円の損害賠償を国側に命じる判決であったが、二審ではそれらを取り消し、税関の処分を妥当とする判決となった。その後、平成20年に、最高裁第三小法廷は、二審・東京高裁判決を破棄したうえで、日本国内への持ち込みを禁じた税関の処分取り消しを命じ、国側敗訴が確定した。この判決では、その写真集は、写真芸術に高い関心を有する者による購読、鑑賞を想定しており、その写真芸術の全体像を概観するという芸術的観点から編集したものであるといえること、性描写のある写真が写真集全体に対して占める比重が低いものであること、白黒の写真であり、性交等の状況を直接的に表現したものではないこと、と判事している。
 この他にも、悪徳の栄え事件、四畳半襖の下張事件など、憲法21条と刑法175条が議論の対象となっている。いずれの裁判においても、問題となるのは「わいせつ物の定義」である。今までの、性器が露出していればアウトというわいせつ概念の在り方に対して、「相対性わいせつ概念」という学説が存在する。これはわいせつ概念は「社会の文化の発展の程度、その他諸々の環境の推移に照応し、作品の芸術性、思想性等との関連において評価判断さるべきである。」(*1)という考え方で、「性器や性行為を詳細に描写した文章や図画は猥褻物であり、そうでないものは猥褻物でない」という従来の見方とは違った切り口である。田中二郎裁判官の発言により有名になった。この概念が例の二つの事件で判断基準に使われることはなかったが、これに準じて考えると、チャタレー事件も、メイプルソープ事件も、わいせつ物には当たらないと考えることができる。現代の日本ではわいせつ表現か否かは社会通念によって判断されるのが通例である。

 憲法21条と刑法175条が対立するのは、わいせつ物の概念がハッキリしないためである。社会通念は時代によって変化していくのだ。わいせつ物の概念はその時代の社会通念によって定められ、適用される。憲法21条と、刑法175条の対立も、ここから生まれていると考えられる。

参考文献

オススメの参考図書

↑↑芦部信喜氏の講義録で、憲法のあり方を巡る重要な判例が多く掲載されています。著作権法の課題でも使用できる内容ですので、手元に1冊置いておくことを勧めます。

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