【MAU】美術の歴史と鑑賞【課題1】

MAU通信 -美術の歴史と鑑賞

美術の歴史と鑑賞 第1課題

「教科書に掲載されている作品のうち、中学生に鑑賞させたいと思う作品2点を選び、各々の作品の良さや特徴について説明するとともに、それらを選んだ理由を、2作品を比較鑑賞する視点から解説しなさい。」

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レポート本文

 今回、中学生に鑑賞させたい作品として選んだのは菱川師宣の「見返り美人図」と、モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥールの「ポンパドゥール夫人の肖像」である。以下にそれぞれの特徴と詳細、またこの二作品を選んだ理由、その比較によって生まれる発見について解説する。

 「見返り美人図」は1693年頃、浮世絵の始祖である菱川師宣によって描かれた。浮世絵美人画の最高傑作などといわれる肉筆画である。縦63cm×横31.2cmの大きさで、東京国立博物館に所蔵されている。江戸時代、浮世絵は庶民の絵画として発展し、一大ブームとなった。当時庶民たちが好んだ題材は、憧れの遊女や人気の歌舞伎役者、日本全国の名所などで、この絵も吉原遊廓という江戸幕府によって公認された遊郭の周辺の遊女をモデルに描かれた立姿の美人図である。桜や菊の花輪を散らすあざやかな緋色の着衣が印象的で、軽やかな歩行の態を保ちつつふと後方を見返る姿に艶やかさを感じさせる。尻が下に大きく描かれ、異様に胴が長いという特徴を持つ。豊かな体型のおかげで、着物の美しさを存分に引き立たせている。髪は前髪と鬢の部分に分け、それぞれにゆるくねじり結わいて後ろに垂らし、ふり返る角度と髪、袖、吉弥結びの帯の動きにシャキッとした中に女性らしさが感じられる。見返る姿によって、玉結びにした髪、吉弥結びの帯、そして着物の丸模様という当時の流行を見せることにも主眼がおかれている。
 「ポンパドゥール夫人の肖像」は1775年頃、モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥールによって描かれたパステル画である。彼は「パステルを顔の研究だけに、つまり、髪型や衣裳を顧みず、ただ表情を捉えることだけに眼を向けた画家」(*1)、「当時、パステル画を描かせたら右に出るものがないと言われた画家」(*2)などと評されている。作品のサイズは縦177cm×横130cmと、ほぼ等身大の大きさで、フランスのルーブル美術館に所蔵されている。この作品はロココ期の代表的な作品で、女性的な優美さ、官能性をもち、軽やかで装飾性が高いことを特徴とする。目を見張るほど細かく描写されたレースやドレスの柄にはその質感や温かみまで表現されている。この時代、フランス宮廷では女性の感性に合わせた極めて趣味的な要素の強い美術が生まれていた。描かれているポンパドゥール夫人はその美貌と聡明さでルイ15世の窮姫として宮廷に君臨した人物で、王の窮愛を一身に受けた夫人は、宮廷を取り巻くもの、絵画、彫刻、ファッション、装飾、家具など、ロココ美術の粋を集めて、豪華絢爛な世界をつくった。ルイ15世はその美貌を称えて「そなたはフランス一魅力的な女性だ」と言ったとされている。この時代の肖像画や肖像彫刻にはモデルの顔に一瞬の動きを与える微笑を好んで表現する傾向がある。夫人の横に置かれている書物やデッサンは彼女が芸術の擁護者だったことを表現している。ド・ラ・トゥールは、この作品を、青い紙を下地に、パステル用クレヨンだけを用い、グワッシュでわずかに補うことで仕上げた。本人を前にして制作したのは顔のみで、ここだけが別紙に描かれて貼り付けられている。
 私がこの二つの作品を選んだのは、いずれも女性をモデルに、美しさを表現することを目的としていながら、その表現が全く異質な点に面白さを感じたためである。この二つの作品は、いずれも「美人」を描いたものであり、また、その美しさを表現しようとする画家の努力が反映されている作品である。女性の一瞬の表情を描いたという共通点もある。ただし、両者の作品が持つ表現・描写方法は真逆と言ってもいいほどで、西洋と日本での美意識の違いがはっきりと表れている。輪郭線や影の有無、個性の表現といった基本的な西洋画・日本画で比較されやすいことがらの検証も可能ながら、細部に目をやれば、例えば、いずれの作品も人物の着衣に細かい柄の描写がされているが、「見返り美人図」は着た際に入るシワはあまり考慮されておらず、広げた状態で見える、本来の形に近い描写をしているのに対し、「ポンパドゥール夫人の肖像」はいくえにもシワが入り、やわらかな布の質感の表現が優先されていることがわかる。また、その作品のモデル・背景を考えると、「見返り美人図」は遊女という位の低い人物をモデルに選んでいるのに対し、「ポンパドゥール夫人の肖像」は、公妾ではあるものの、フランスの貴族社会、その中でも頂点の女性である。この正反対さは浮世絵が庶民の間を中心とする流行であったことや、フランスの貴族社会が非常に芸術に豊かな環境であったことに由縁する。

 この二作品を鑑賞し思考することは、単に絵を見て描かれ方の違いの発見や表現の美しさといった表面的な感動に留まらず、モデルや背景についても比較し発見し、考えることができる。以上の事柄から、多岐に渡る有意義な学習ができると考えた。

参考文献

  • (*1)「肖像表現の展開 ルーヴル美術館特別展」国立西洋美術館 朝日新聞社 1991
  • (*2)「美の旅人 フランスへ」伊集院静 小学館 2007
  • 「ルーヴル美術館へ。」ペン編集部 阪急コミュニケーションズ 2009
  • 「カラー版西洋美術史」高階秀爾 美術出版社 1990
  • 「浮世絵美人解体新書」安村敏信 世界文化社 2013
  • 「肉筆浮世絵 第二巻 師宣」堀内末男 集英社 1982

オススメの参考図書

↑↑ この課題はテーマさえ決まってしまえばそんなに難しいことはないかと思われます。
「同じテーマ」で「違う表現」をしている2作品を教科書から探しましょう。
水乃は国内⇔国外で描きましたが、古代⇔現代などでも良いかもしれませんね。
時代背景などを調べる時には上記2冊が便利です。

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