【MAU】美術論【課題2】

MAU通信 -美術論

美術論 第2課題

「日本美術における、芸術と社会とのかかわりについて考察しなさい。できるだけテーマを絞り、具体的な記述でまとめること。」

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テーマ「戦時中の国と美術」

 R.G.コリングウッドの「芸術の原理」によると、芸術は「魔術芸術」と「娯楽芸術」に分けることができるという。前者は実際の政治や商業など、なんらかの宣伝・思想の誘導効果を狙うある種のプロパガンダ的な芸術のことを指し、後者は具体的な狙いのない、見る人間の感情を高揚させることを目的とした芸術のことを指す。今回のテーマ「芸術と社会とのかかわり」を考えるにあたり、社会と芸術がより密接に展開した「魔術芸術」が多く行われていた時代、1931年の満州事変から1945年の太平洋戦争の終結に至るまでの15年戦争中の日本の美術を取り上げ、美術と社会のあり方について考察する。

 戦時中の美術は国の支配をうけていた美術である。開戦後まもなく日本では勤労動員が行われ、画家も例外なく徴用された。国民の戦意高揚・国民精神の発揚のために美術は大きな役割を果たすと考えられ、画家に要請したり、従軍画家として国民の愛国心を高揚させる作品・戦争の場面を伝える作品を多く制作させた。多くの画家が自ら進んで、または生活のために仕方なく戦意高揚のための戦争画(戦争を題材として描かれた戦争記録絵画。戦闘場面や戦士の出征や凱旋、戦時下の市民生活など戦争の諸場面が描かれた)を描いた。開戦初期の頃はそれほど多くの美術家が参加していた訳ではなかったが、戦争が激化して、総力戦となった頃には、日本の美術界の主流は戦争画になっていた。戦争画を積極的に描いた画家を突き動かしていたのは「日本の勝利のために役立ちたい」という熱烈な愛国精神があり、また、あまり気が進まないけれど描いた人の場合は、当時の社会の雰囲気が強く影響していた点があげられる。当時は、全国民が一丸となって戦争勝利のために努力し突き進むことが求められていた時代であるため、戦争に非協力な人は「非国民」として指弾された。今ではとても考えられないことだが、この当時、画家にとって必要不可欠な画材も配給制となり、日本美術及工芸統制協会という機関が、画材の配給権を独占し、画家たちの思想・表現傾向や業績をもとに画家たちを甲乙丙のランクに分け、画材の配給量を決めた。画家として暮らしてゆくために描きたくないものも描かざるを得なかった事実がある。戦争画の傑作としては藤田嗣治の「アッツ島玉砕」がある。驚くほど細密に、生生しく描き込まれており、尋常ではない意気込みを感じる。藤田は後世に残すべき戦争画の傑作を描こうという意欲にあふれていたという。南方画信にて「いい戦争画を後世に残してみたまへ。何億、何十億という人がこれを見るんだ。それだからこそ、我々としては尚更一所懸命に、真面目に仕事をしなけりやならないんだ」と語っている。しかし、「アッツ島玉砕」は観客の人気を集めた一方で、その真に迫るリアルな悲惨さのために戦意高揚には繋がらないという批判を受けた。しかし藤田は戦争の光景・実態をそのまま描くことを何より大切にした。
 戦争画を描かなかった画家たちもいた。取り上げるのは日本の敗色が濃くなった1943年に「新人画会」を結成した8人の画家たちで、靉光、麻生三郎、糸園和三郎、井上長三郎、大野五郎、鶴岡政男、寺田政明、松本竣介である。彼らは、言論や表現活動への制限が日ごとに厳しさを増した戦時下にあっても、それぞれ「自分の芸術」を追求した。芸術のための芸術「娯楽芸術」である。戦争画に手を染めなかったのも、メンバーの多くは明確な反戦の意思を持っていたからではなく、むしろ、「自分が描きたい絵を描く」という画家としての信念に忠実だったからというのが真相のようだ。
 戦後、多くの戦争画がアメリカ軍に没収された。それらが美的価値を備えた絵画なら、占領軍の基本方針に基づき文化財として保護しなければならないが、逆に旧体制の軍国主義プロパガンダにすぎないのであれば、没収した有害な作品は廃棄する必要があるという事情である。多くの戦争画を描いた藤田をはじめ、美術界においての戦争責任を負うべき者が考えられた。
 当時の戦争画が国民の心を誘導し、洗脳するツールとしての側面が強いことは認めざるを得ない。だが、ならば戦争画には美術的価値は無いのかというと、私はそうではないと思う。自ら進んで描いた人の作品ならば、それこそ自分の戦争への思い、自己の表現がそこにあるのであり、気が進まなかった人の作品だとしても、そこにその人自身の表現が存在すると思えるのだ。当時実際に戦争画を見た上島長健は「評論家の中には、戦争記録画をちっとも認めない人が多いようだが、私はその論に組みしかねる。(中略)記録画には真剣に取り組んでいたし、物事や人間の動的な姿をリアルに受け止めて描破することがなかった日本の絵画にとって、この記録画の季節は短くはあったが一つのエポックだったと思うのである。」と述べている。(*)

 戦時中、美術が政府のプロパガンダに利用された面があることは否定のできない事実である。自分の描きたい絵がもっと違う場所にあった者にとってはつらく恵まれない時代であったことも真実である。しかし、そんな時代にあっても画家たちは筆をとり、各々の個性を持って社会を表現したのである。

参考文献

  • (*)「絵具と戦争 従軍画家たちと戦争画の軌跡」 溝口郁夫 国書刊行会 2011
  • 「「戦争」が生んだ絵、奪った絵」 佐藤隆信 新潮社 2010 
  • 「画家たちの「戦争」」 佐藤隆信 新潮社 2010
  • 「芸術と戦争 従軍作家・画家たちの戦中と戦後」もりたなるお 産経新聞出版 2007

オススメの参考図書

↑↑ 何をテーマに書くかで必要な本が変わりますが、水乃と同じ戦争テーマならこちらの2冊の本が内容が充実していて、オススメです!

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