デザイン史 第1課題
「モダン・デザインの運動を選択群の中からひとつ取り上げ、モダン・デザインのプロジェクト全体が目指したものとの関連の中で論じなさい。」
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テーマ 「アーツ・アンド・クラフツ」
モダンデザインとは近代と言う時代にデザインをどう対応させるかを巡り起こった運動から生まれた概念である。何故モダンデザインは誕生したのか、下記にモダンデザインが目指したものと、その初期の運動「アーツ・アンド・クラフツ」についてまとめる。
近代化から生じた産業革命はイギリスで起こり、18~19世紀にかけて製品や素材などの生産方式が著しく変化し、新素材・技術が生まれた。革新によって大量の新製品が開発されたが、美術・装飾面は従来の家具や調度品といった工芸品に比べ著しく劣っており、新しい生活様式にデザインが対応出来ていなかった。それは機械による生産でもあるにも関わらず、それまでの伝統的な装飾を外観にまとったものがほとんどで、過去の様式という事実に根拠した寄せ集めであり、全体として統一性を欠くものであったためである。いわば「デザイン」と「生産工程」が剥離していたのである。
また、貧困とスラム街の問題も近代デザインに与えられた課題の一つである。資本主義的市場の台頭により、貧困が深刻な問題となった。貧困とスラム街の問題が一方では経済的計画の概念に繋がったように、近代デザインの計画の概念を形成させることになる。19世紀以降近代デザイン・都市計画によってスラム街を解消しようとする動きが強まり、誰もが等しく健康で豊かに幸福に生活を実現することのできる住宅、家具、日用品の計画が構想された。
モダンデザインの父と呼ばれる英国のウイリアム・モリスは「デザイン」と「生産工程」が剥離している状況を「混乱」であるとし、批判的な立場からデザインの統一性・総合性を提案した。またモリスは、もののデザインによって人々の思考や感覚、生活を変革することができると考えた。具体的にはかつて統一性を持っていたゴシックの時代に見習い、中世的なものづくりとデザインを目標とした。かつての中世社会の工芸品は、近代工業に見られる「機械を使った精巧さ」を持たないとはいえ、そこには人間性が保たれていた。良き趣味を具体化したデザインを供給することで、人々を良き趣味を持った人間に変革することができ、かつそうした人々の生活する社会全体も変革できると考えていたのである。
モリスの自宅「赤い家」はモリスの理想とする手仕事による生活空間の在り方を体現した住宅である。赤い家はモリスと妻・ジェーンの新居として建てられた住宅建築であり、中世的なデザインで作られている。テーブル・ベッド・椅子・絨毯などあらゆる家具や日用品のデザインを、モリスやウェッブ、バーン・ジョーンズが手がけた。ウェッブとバーン・ジョーンズは1861年4月に設立された「モリス・マーシャル・フォークナー商会」の主要なメンバーである。ウェッブは主に家具の設計や内装計画を担当し、バーン・ジョーンズは主に家具の絵付けやステンドグラスの下絵を担当した。クライストチャーチ大聖堂にある「ヴァイナーの窓」はモリスとバーン・ジョーンズの共作で、色数を抑え、明るく人物像を際立たせることで全体の調和を図った大変美しいステンドグラスである。この商会は短くも1875年に解散することになるが、その後新たに「モリス商会」が作られ、同様に中世的な手仕事による製作活動が行われた。こういった活動を経て、モリスの総合的なものづくりを目指そうとする視点は「アーツ・アンド・クラフツ運動」として広がっていき、近代デザインの始まりとなる。しかし、社会を変革するには万人に受け入れられる普遍的な価値を提供しなければならないが、モリスが重点を置いた手仕事による中世風の価値観は、入念な作業によってしか生み出されないことから、コスト面からもみて一部の社会上層の人々にしか受け入れられないという矛盾をはらんでいた。そのため、後にモダンデザインが進んでいく方向は、規格化による大量生産との調和であり、モリスの手仕事を理想とする社会は実現しなかった。
モリスが先導した「アーツ・アンド・クラフツ運動」は1880年代になると、ロンドンを本拠とする複数のグループが協力し合って進める社会的な芸術運動となった。ウォルター・クレイン、C・R・アシュビ―、アーサー・マックマードらはアーツ・アンド・クラフツに深く関わった芸術家達である。彼らの多くは1888年に設立されたアーツアンドクラフツ展に出展したり、センチュリーギルドやアート・ワーカーズ・ギルドなどのグループ内で活動した。アーツ・アンド・クラフツ展は88年から毎年開催され、91年からは3年ごとの開催になったものの第一次世界大戦まで続き、ヨーロッパ諸国に大きな影響を与えた。アール・ヌーヴォー、ウィーン分離派、ユーゲント・シュティールなど各国の美術運動にその影響が見られる。また、ドイツ語圏では各地の分離派を経てドイツ工作連盟へとつながる。
モダンデザインは資本主義的市場の台頭により生まれた「貧困」や、「デザインと生産工程の剥離」を解決するために生まれた。モリスの目指した手仕事による生活空間の総合的な創造は、大量生産を中心とする時代の在り方には相容れなかったものの、生活と芸術を一致させようとしたアーツ・アンド・クラフツ運動の思想や活動は後の様々な芸術家に大きな影響を与えた。
参考文献
- 「デザイン/近代建築史」柏木博+松葉一清 鹿島出版会 2013
- 「デザイン史を学ぶクリティカル・ワーズ」高島直之 フィルムアート社 2006
- 「BBSアートガイド アーツアンドクラフツ」スティーヴン・アダムス 美術出版社 1989
- 「アート・ビギナーズ・コレクション もっと知りたいウィリアム・モリスとアート&クラフツ」藤田治彦 東京美術 2009
- 「カラー版世界デザイン史」阿部公正 美術出版社 1995
- 「モダン・デザイン全史」海野弘 美術出版社 2002
- 「デザインの20世紀」柏木博 日本放送出版協会 1992
- 「近代デザイン史」柏木博 武蔵野美術大学出版局 2006
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