【MAU】現代芸術論【課題2】

MAU通信 -現代芸術論

現代芸術論 第2課題

「芸術の「大衆化」について述べよ。」

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レポート本文

 大衆化とは「近代社会の構造変化と社会規模の拡大化に伴って発生してきた大衆の行動様式などの画一化現象」であり、大衆化の原因には「独占資本の形成、大量生産と大量消費、マスメディアの発達」などがある。本課題のテーマである「芸術の大衆化」の定形例として「ポップ・アート」があげられる。それはポップ・アートが「独占資本の形成、大量生産と大量消費、マスメディアの発達」を中心軸に展開されている芸術だからである。ポップ・アートと社会の関係、発祥、その評価について考える。

 第1にポップ・アートの特徴と、それまでの芸術との相違点について述べる。ポップ・アートが生まれる前、1940~50年代のアメリカでは抽象表現主義という具象的なモチーフを拒否し、作者の内面や感情を激しい筆触で画面にぶつける情熱的な芸術が時代を風靡していた。その反発として日常的なイメージやありふれた日用品を用い、今までにない新しいイメージを作り出すネオ・ダダやポップ・アートが誕生する。ポップ・アートはネオ・ダダの発展形と理解されることもあり、1950年代のイギリスでリチャード・ハミルトンやピーター・ブレイクらによって先駆的実験が試みられアメリカで本格的に開花した。ポップ・アートは芸術は大衆と共にあるべきものと考えており、人間が置かれている社会や日常に存在するイメージをアートにする。それは再現的写実主義とはまるで異なるものだと理解され、伝統的な写実表現が三次元の人物や風景をキャンバスにリアルに再現することを目標としているとしたら、ポップ・アートの芸術家達が試みたのは世界に溢れている「イメージ」のオブジェ化である。ネオ・ダダも日常的なイメージを作品に取り込むといった点で、ポップ・アートと共通する部分がみられるが、これは「ハイアート」と「大衆芸術」という、今まで相容れることのなかった二つのものを両立させることで新しいイメージを構築しようと動きである。またポップ・アートはネオ・ダダと異なり「分かりやすさ」を大きな特徴とする。
 第2にポップ・アートが生まれた時代背景・社会との関わりについて述べる。ポップ・アートは社会と密接な関係にあり、産業革命がなければ生まれなかったアートである。18世紀以前に多く行われていた生産体制であるマニュファクチュアは、18世紀後半に登場したフォーディズム・動力機械の導入により姿を消した。1950年代にアメリカは世界のどの国よりも早く機械を用いた生産体制を整え、豊かな社会を実現した。同じ機械で作られた同じ製品が市場に出回り、誰もが大量生産の製品に囲まれそれらを消費し、マルチメディアの発達により、テレビや雑誌でその広告を目にする生活を送っている。ポップ・アートはそれらが持っている「イメージ」そのものを芸術にしたのである。ポップ・アートの芸術家であるアンディ・ウォーホルやロイ・リキテンシュタイン、ジェームズ・ローゼンクイストらは、大衆文化や消費社会を象徴する大量生産で生まれたポスターや写真、マンガなどのイメージを断片的に取り出し、拡大したり繰り返したりすることでアート化した。これは共通のイメージを利用することで成り立つコミュニケーションともいえ、情報が大衆に共有されていなければ彼らのアートは成り立たないと言える。多くのものが生産されアメリカ中に行き渡っているからこそ、イメージとして使用することができるのである。
 第3にポップ・アートが大衆にどのように評価され、受け継がれたのかについて述べる。ポップ・アートは映画や漫画などの大衆文化と同様に、ハイ・アートのような難解さがないため観客の心を一瞬で掴んだ。アメリカの豊かさを象徴する大衆文化を魅力的に描いたとして社会に好意的に受け入れられた。ポップ・アートは身にまわりにあるイメージや日常的なものから成り立っており、今ある世界を肯定しているため奇妙な開放感を有している。しかし一方でポップ・アートに大衆消費社会の悪趣味さや閉塞感、死の影を見出し、「アートを使い捨てにした」という批判も少なくなかった。美術批評家のクレメント・グリーンバーグはポップ・アートを「「低いレベルの楽しみ」であって「キャンディのように小さくなってしまう」ものだと批判」した。(*1)ポップ・アートは1960年代のアメリカ社会の反映であるため、豊かなアメリカ社会の裏に隠された儚さや無情さ、退廃的な感覚をも内包しているのである。ポップ・アートは1960年代末になると無駄なものをとことん省く「ミニマルアート」や大地そのものを素材として使う「アースワーク」に押され、急速に下火になっていく。しかしその「イメージ」を素材として用いる姿勢は「コンセプチュアルアート」や、今日の「広告美術」「グラフィックアート」に引き継がれ、大衆文化の一部として発展していく。純粋芸術と大衆文化の間の壁はますます失われ、大衆的なイメージや大量生産商品を用いた美術はすでに当たり前の存在になっている。

 機械による大量生産やマスメディアの発達により、アメリカの生活は豊かなものになった。20世紀になって大衆が力を持つ大衆社会を迎えたことにより、大衆芸術の位置づけも変化していった。ポップ・アートは大衆社会に寄りそうアートであり、1960年代のアメリカ社会のイメージの反映である。

参考文献

  • (*1)「カラー版20世紀の美術」末長照和 美術出版社 2000
  • 「カラー版西洋美術史」高階秀爾 美術出版社 1990
  • 「鑑賞のための西洋美術史入門」早坂優子 視覚デザイン研究所 2006
  • 「現代芸術論」藤枝晃雄 武蔵野美術出版局 2002
  • 「ポップ・アート」 クラウス・ホネフ タッシェン・ジャパン株式会社 2009
  • 「ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡」 宮下規久朗 光文社新書 2010

オススメの参考図書

↑↑ いつものシリーズの20世紀版です。
相変わらず絵が多くて分かりやすいので最初の1冊に良いかと思われます。
アンディ・ウォーホルに関しては、こちらの本に詳しく書かれています。↓↓

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