【MAU】絵画空間論【課題1】

MAU通信 -絵画空間論

絵画空間論 第1課題

「 選択した作品における画面の成り立ち(特徴・造形要素の有り方・表現効果の差)を分析する。 」

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テーマ「 ラファエロ「大天使ミカエルと悪魔」と歌川芳艶「大江山酒呑退治」の画面分析について 」

「 ラファエロ「大天使ミカエルと悪魔」と歌川芳艶「大江山酒呑退治」

 本レポートではラファエロの「大天使ミカエルと悪魔」と歌川芳艶の「大江山酒呑退治」の二点の絵画を比較し、それぞれの作品が持つ表現や特色について考察する。

 「大天使ミカエルと悪魔」は1518年にラファエロ・サンティによって描かれた油絵で、悪魔の王サタンと、それを地獄へ突き落すミカエルの姿が描かれている。この作品の見どころはミカエルの力強い動静であり、その英雄的な様を表現するために、強い明暗表現や逆三角形の構図が用いられている。「大江山酒呑退治」は1858年(安政5年)に歌川芳艶によって描かれた大判錦絵三枚続の作品で、大江山の酒吞童子を退治する源頼光と四天王たちが描かれている。この作品の見どころは画面からはみ出さんばかりに大きく描かれた酒吞童子の首の迫力にあり、それをより効果的なものとするために鬼をメインにした構図がとられている。どちらの作品も悪魔・鬼をヒーローが退治しているワンシーンを描いたダイナミックな作品であるが、その表現方法は異なる。その違いを下記に「人物」と「背景」二つの視点から検討する。
 第一に人物表現について記す。「大天使ミカエルと悪魔」は前述したように、光と影が強調して描かれており、それは見る者に劇的な印象を与える。明暗表現だけでなく激しい動きも相まって、バロック的な迫真性を感じ取ることができる。①の箇所のように力強く緊張した筋肉や、②の箇所のように、風に舞い上がる衣服や髪の毛などがリアルに描写されることで、スピード感のある画面を生んでいる。他方「大江山酒呑退治」は登場人物達全体に光が当たっており、全体的な明暗表現は弱い。色づかいによる多少の陰影表現は確認出来るが、人物に影はなく、ペープサートのような絵付けである。人の表現も簡略化され、「大天使ミカエルと悪魔」のような布がなびくような立体的な描写などは少ないが、代わりに③酒吞童子の吐き出す火炎・熱風や、④背景に漂う霞、⑤禍々しく描かれた鬼の髪などが、場面に臨場感を生んでいる。これは現実の描写ではなく記号的な表現であり、酒吞童子を禍々しく、強大なものとして演出する工夫である。「大天使ミカエルと悪魔」には見ることのできないコミカルな表現である。
 第二に「背景」をみる。「大天使ミカエルと悪魔」は、人物の背後に風景が遠くまで続いており空間が存在する。これは「悪魔を退治する大天使」という現実にはあり得ない情景を、現実的な臨場感あるものとして描写するために、背景をリアルに描いていると考察できる。主役の大天使ミカエルを埋もれさせることなく、空間に広がりを持たせ、説得力のある画面を作り出している。他方「大江山酒吞退治」は人物表現同様、記号的・装飾的な背景が用いられている。「大江山酒吞退治」における背景は場所の描写や現実感の表現ではなく、演劇における書割のような役割なのである。現実の整合性よりも、画面の美しさを優先し再構成したような人物配置、額やフィルターのような装飾的役割を持った背景が特徴である。⑥の箇所のようにモノや登場人物たちの重なり合いによって多少前後の関係は発生しているものの、奥の空間は詳細に描かれていない。そのため「現実に近い」という意味では「大天使ミカエルと悪魔」が制する。しかしながら、そういった遠近感・奥行きの関係にとらわれなかったからこそ、「大江山酒吞退治」は自由に素材を配置し美しく臨場感のある画面を作り出すことができたといえる。とはいえ「大天使ミカエルと悪魔」も「大江山酒呑退治」ほど装飾的・平面的ではないとはいえ、現実のものとするにはその明暗表現やダイナミックな動静は現実離れしたものであり、一種の理想化されたワンシーンであることは否定できない。「大江山酒呑退治」が人の手によって全て準備された「演劇のワンシーン」とするなら、「大天使ミカエルと悪魔」は理想化された「映画のワンシーン」だと言えるだろう。

 どちらの作品もヒーローが悪魔(鬼)を退治する瞬間の光景を切り取った、ダイナミックな作品である。「大天使ミカエルと悪魔」では、主役である登場人物を、美しくかっこよく演出するために、強い明暗や激しい動きなど、とことん理想化された表現がされる一方で、現実的な岩石地帯の背景を写実的に描くことで、非現実的な世界をあたかも現実のように見せる工夫がされている。他方「大江山酒吞退治」では主役である登場人物を、強く美しく演出するために、装飾的な背景を描き、現実感を抑え、記号的な表現で画面を再構成し、伝説の現実離れした様子を華々しく描き上げている。

参考文献

  • 「ラファエロの世界」池上英洋 新人物往来社 2012
  • 「妖怪曼陀羅 幕末明治の妖怪絵師たち」悳 俊彦 国書刊行会 2007

オススメの参考図書

↑↑自分がテーマにしてる作品集を買ってくればよい話なので、とくにオススメというわけではないのですが、一応ご紹介。余談ですがこのレポート水乃が初めて評価Sを取った課題でして、思い出深かったりします(*´з`)うれし~

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