【MAU】デザイン史【課題2】

MAU通信 -デザイン史

デザイン史 第2課題

「モダン・デザインに深く関係する人物をひとり選び、論じなさい。」

レポートの参考にどうぞ。
全体的・部分的問わず、剽盗・転載はご遠慮ください。

テーマ「ピエト・モンドリアン」

 本レポートではピエト・モンドリアンについて記述する。彼はデザイナーではなく画家である。しかし彼が後のデザイン界に与えた影響は大きく、今日のデザインを語る上でモンドリアンはかかせない存在となっている。モンドリアンがモダンデザインに与えた影響はどのようなものか、下記のようにまとめた。

 モンドリアンは1872年にオランダで生まれた。彼が生まれた時代、美術界は印象派やポスト印象派が市民権を得ていた。彼も絵を描き始めた直後はゴッホ風の絵や点描を用いたスーラ風の絵などを描いていた。しかし1910年代にパリでキュビズムの作品を見て衝撃を受け、キュビズム絵画の線や色使いに興味を持ち、「対象物の背後にある形の真実」を求めるようになる。世界を可能な限りまで単純化し、線によって「形の中にある不変の真実」を構成しようとした。「楕円のコンポジション」(①)は彼が目指すものに近づこうとした過渡期の作品である。その後様々な試行錯誤を重ね、辿りついたのは本質への純化を重ねた結果生まれた、非対象の世界である。線は水平線と垂直線のみで、色は赤、黄、青の三原色とわずかな無彩色によって構成された。これは当時の芸術には全くない、まさに革新的な創造であったが、彼のスタイルは同じ時代の人々には理解しがたいものであった。「赤、黄、青と黒のコンポジション」(②)は彼の代表作とも言える作品である。彼はこの様式を「新造形主義」と呼び、その内容を「一、造形手段は、三原色(赤、青、黄)および非色(白、黒、灰色)の平面または直方体でなければならない。建築においては、空虚な部分が非色であり、材質部が色にあたる。二、造形手段の等価性がつねに必要である。大きさや色彩が異なっていても、それらは同じ価値のものでなければいけない。一般に均衡は、非色の大きな平面と、色または材質の小さな平面とのあいだに保たれる。三、同様に、構成にとっては、造形手段における対立の二元性が必要である。四、持続的均衡はその基本的な対立における位置の関係によって達成され、直線(造形手段の極限)によって表現される。五、造形手段を無力化し抹殺する均衡は、配置と、生きたリズムを生み出す比例の手段によって達成させられる…」(*1)とまとめている。
 モンドリアンの新造形主義は1917年に自ら結成に参加した「デ・ステイル(オランダ語で様式を意味する)」と呼ばれるグループでの活動と、その機関誌の発表によって世界に広く知られるようになった。デ・ステイルではドゥースブルフをリーダーに、メンバー全員がモンドリアンの主張した新造形主義を基本理念として共有しており、絵画・彫刻にとどまらず、建築やデザインなど様々な分野において展開された。当グループの一員で建築家兼デザイナーであるヘリット・トーマス・リートフェルトは見事にモンドリアンのスタイルを実践し、「レッド・アンド・ブルー・チェア」や「シュレーダー邸」(③)を作り上げた。とりわけ「シュレーダー邸」はモンドリアンの究極の抽象幾何学を、住宅の形をとって立体化したもので、壁や開口部など構成要素のすべてがモンドリアンの美学に奉じられ、モダニズム初期に多大な影響力を発揮した。「シュレーダー邸」は2000年に建築分野の現代の運動の証の1つとしてみなされユネスコの世界遺産に登録されている。
 モンドリアンが与えた影響は建築だけにとどまらず、ディック・ブルーナの「ミッフィー」やイヴ・サン=ローランの「モンドリアン・ルック」などにもみることができる。モンドリアンのその線で区画された色面、はっきりとした色使いは、モダンな商業デザインの領域においても模範となる素晴らしさを内包しており、1941年には『フォーチュン』誌が芸術家12人を特集した記事においてモンドリアンとデ・ステイルが取り上げられた。記事によれば、モンドリアンはタイポグラフィーやレイアウト、建築、工業デザインなど様々な商業美術に大きな影響を与えた重要人物だとされ、その影響は「書籍、雑誌、ポスター、商標、床敷材、オフィス、そしてチャイルズのテーブルトップにいたるまであらゆるところに存在する」(*2)と評された。モンドリアンは自らのこのスタイルが絵画に留まらず、いずれ空間そのものに展開されることを予期していたとされる。
 1924年に、絵画表面上において直角する形態を用い純粋な抽象を目指したモンドリアンと、空間芸術への展開を視野に入れ、対角線を導入する要素主義を提唱したドゥースブルフが対立し、モンドリアンは「デ・ステイル」を1925年に脱退することになる。雑誌は1928年まで刊行され、グループ自体はドゥースブルフの死(1931年)まで続いたが、大きな潮流になることはなかった。しかしこのグループとドゥースブルフがいなければ、モンドリアンの芸術と思想はモダンデザインの基本的なイメージとして一般化されることはなかったと考えられる。

 モンドリアンは「形の中にある不変の真実」を求めた画家であり、その作品の在り方は、様々な変化を経つつ抽象表現主義やミニマル・アートに受け継がれている。しかしそれと同時に、彼の作品はモダンデザインという視点においても大変価値のあるものであり、彼の作り出した様式は今日のデザインにも強い影響を与え続けている。

参考文献

  • (*1) 「近代絵画史(下)ゴヤからモンドリアンまで」高階秀爾 中央新書1975
  • (*2)「美の20世紀⑧モンドリアン」ヴァ―ジニア・ピッツ・レンバート 二玄社 2007
  • 「モダン・デザイン全史」海野弘 美術出版社 2002
  • 「デザイン/近代建築史」柏木博 松葉一清 鹿島出版会 2013
  • 「増補新装[カラー版]世界デザイン史」阿部公正 美術出版社 1995
  • 「ニューベーシック・アート・シリーズ ピート・モンドリアン」スザンネ・ダイヒャー タッシェン・ジャパン株式会社 2005 

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↑↑ 課題1で軽めの書籍を紹介したので、今回は比較的重いのを。
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